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2007年12月 5日 (水)

小説 トリスタンとイゾルデ1

小説 トリスタンとイゾルデ

はるか昔のブリタニア。
コーンウォールの王マルケは勢力を拡大し、今や領土を海外にも広げようとしていた。それというのも王の甥、忠実なる臣下、トリスタンのめざましい活躍によるものだった。
そしていよいよ海を越え、トリスタンの軍団はアイルランドに上陸した。トリスタンは幼馴染のメロートと共に進撃した。敵の大将、モロルトと一騎打ちになったトリスタン。モロルトにわき腹を刺され、馬から落ち、窮地に陥るが、太刀を一振りし、モロルトの心臓を貫いた。モロルトは即死。大将が死に、アイルランド軍は総崩れになった。
アイルランドの女王、イゾルデにその訃報はすぐに届けられた。 モロルトはイゾルデの許婚だった。
一方、コーンウォールに凱旋したトリスタンは、モロルトに刺された傷が思わしくなく、悪化の一途をたどっていた。
このままでは死んでしまう!
忠実なるトリスタンの部下、クルヴェナルは心配し、魔術的な治療を施すというイゾルデの力にすがろうとした。イゾルデにはトリスタンが許婚を殺した人物だということを隠し、つてを頼って、アイルランドの女王の下へトリスタンの体を小船に乗せて運んだ。
ここから先は一人で行かなくてはいけません、
クルヴェナルはトリスタンを送り出した。イゾルデの住まいにたどり着いたトリスタン、
イゾルデは長い燃えるような赤毛を背中まで垂らし、悲しみにうちひしがれた表情をしていた。
「誰?」
トリスタンと眼が合う。
「…」
「名乗らないとここには入れませんよ」
燃えるような碧の眼に見つめられて、妖術にかかったように、トリスタンはだんだん意識が遠のいてきた。「タン…トリス…」
そうかろうじてつぶやくと、トリスタンは意識を失った。

ゆらめくろうそくの灯かり、
いったいここはどこなんだ? 今はいったいいつなんだ?

ただイゾルデの白い、冷たい小さな手が自分の傷口に薬を塗りこむのを感じた。
頭には靄がかかったまま。体を動かすこともできない。
ただイゾルデの碧の瞳が彼を見つめているのだけがわかった。
「あなたはタントリス…こんなひどい傷を受けて… いったいどこからいらしたの?」
トリスタンは見破られないためいっさい言葉を口にしない。
しかし意識が朦朧となっているときにうわごとを発していた。
彼は恐ろしい悪夢を見ていた。
イゾルデは疑念を抱き始める。
そしてついに真実を知る日が来た。
タントリスと名乗る男の剣の刃こぼれが、モロルトの遺体の体に入っていた金属片とぴったり一致したのだ。イゾルデはタントリスがほんとは誰なのかを知ってしまった。
にっくき敵(かたき)、トリスタンだったのだ!

その日の夜、イゾルデはモロルトの形見の剣を携えて、トリスタンが眠る寝室へと向かった。
ただならぬ雰囲気を感じたトリスタンは眼を覚ます。真っ暗な中に人影が。剣を振り上げている!?とっさに寝台の傍らに置いた自分の剣の柄を握り締めるトリスタン。
しかし人影は襲ってくる気配がない。
実際には数秒間だったが、永遠とも思える時間が経過したように感じられた。
相手がイゾルデだと気づいたトリスタンはイゾルデの眼の中に深い悲哀の情を感じた。
「ままよ…」
トリスタンは観念した。イゾルデの剣が自らに振り下ろされるのを待った。
トリスタンを見つめるイゾルデの眼が次第に変化していく。悲哀に満ち、乾いていた眼に涙があふれてくる。
イゾルデは音を立てて剣を落としてしまった。
トリスタンはイゾルデを引き寄せて、組み敷き、唇を奪おうとした。
イゾルデは右足の膝でトリスタンのけがをしているかしょを思いっきり蹴った。
トリスタンはあまりの激痛に寝台から転げ落ちた。
イゾルデは脱兎のごとく逃げ出した。
残されたトリスタンは激痛に息がつまりながらも少し苦笑してしまった。
「俺はいったい何をやってるんだ…」

翌朝、イゾルデは現れなかった。代わりにブランゲーネがやってきた。
「名は何と言う?」
「まあ!口が利けましたの?タントリス様」
「実を言うと昨夜から声が出るようになったんだ。」
「名前は?」
「ブランゲーネです。」
「ブランゲーネ。頼みがある。私はもう出立する。ご主人に伝えてくれ。この恩は一生忘れないと。この恩に報いるため私はどんなことでもすると伝えてくれ。」
「そんな! まだ全快しておりませぬ。」
「もう大丈夫だ。」
ブランゲーネは慌てて主人に知らせるために出て行った。
トリスタンが部屋を出ていき、船を繋留してあった川岸までやってくると、見慣れた顔が現れた。メロートだ。
「メロート!どうしてここに?」「お前の従者クルヴェナールに頼まれたのさ。見てきて欲しいって。死んでるかもしれないからって。」
「はは、この通りぴんぴんしている。生き返ったよ!」
「どんな魔法を使ったんだ?その女は?魔女なのか?」
トリスタンは微笑むだけで応えない。
二人が川を小船で下るとき、あわてて小屋にやってくるイゾルデの姿が見えた。
メロートは驚愕する。
「なんと美しい!」
「あの女が魔術師なのか?」
応えないトリスタン。

夜。コーンウォールに向かう大きな船の中。
酒盛りをしているトリスタンとメロート。「あの美しい女は誰なんだ?」
「あれはアイルランドの王女、イゾルデだ。」
「お前、なんで知っているんだ?」
「教えてもらっただけさ。」
「ふう~ん」
何事か考え込んでいる風情のメロート。

Part2 に続く。

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